【大場漆部の始まり】

 漆器は椀が基本です。私が漆の世界に入るきっかけとなったのは、一つのお椀との出会いでした。奥能登の寒村でつくられ、重厚で味わい深い魅力の「合轆椀」(ごうろくわん)。最初の復原者である奥田達朗氏と出会い、弟子入りしました。能登での修行は、徒弟制度の仕来(しきた)りの厳しい環境の中、修行僧に近い生活でした。六年に渡る年期が開けて、1980年、小さな工房を構えました。松本市の北の山手岡田地区の閑静な住宅地の中に、工房と、併設した展示室があります。
奥田達朗氏の合轆椀    明治期に作られた合轆椀


【わたしのものづくり】

 私の漆器は華美で精巧なものではありませんが、一つの確信をもって仕事をしています。「デザインが良くなければ漆も素材も活きない」ということです。わたしの考えるデザインとは、見た目の形や表面の装飾を言うのではなく、その中に含まれる精神、感覚(センス)、時代性、それと何よりも人間性を重んじなければと思っています。なかなか言葉で表すのは難しいのですが、私自身、いろいろな物を見たり使ったりするとき、ものの内からにじみ出る風格に魅力を感じます。使うということと、物のフォルムはとても密接に関係していますし、毎日見ていてまたは使っていて飽きないということも大切なことです。
 漆器づくりに大切な「木地」には、ケヤキや桜、栃や栗などの良質の大木をよく使い、信頼する轆轤師(ろくろし)や指物師(さしものし)に任せます。良い材料と良い職人との出会いから漆器づくりは始まります。
 漆はその乾燥や仕上がりに気候風土が大きく関わります。漆を使うその土地で取れた漆を使う地産地消が理想的だと私は感じます。農業とどこか近いものがありますね。地元松本中山地区に植えられている漆の木から、漆を掻き、精製して使うということもしています。
  中山地区の漆の木(2003年)


【よいものを大切に使うということ】

 漆器は毎日使ってこそ、その真価を発揮します。「漆器を育てる」という言葉があるほど、艶も増しますし、愛着もわいてなかなか楽しいものです。漆器はハレの日にだけ使う道具だとしまい込まれている方もいらっしゃいますが、漆器を毎日使うという楽しみもあるのです。世の中にはいろいろな漆器がありますが、私の漆器は使うという前提に、熱い汁物を入れ、毎日使ってもいいような仕事をしてあります。傷んできたら漆を塗り直せば良いのです。良質で長持ちする物を僅かでも身の回りに持って生活することが、エコな生活にもつながり、道具や、ひいては人や自然を大切にする気持ちを育むのではないでしょうか。お子様の教育に利用される方もいらっしゃいます。なにげない日常の生活のなかにこそ本当の豊かさがあることに、多くの方が気づきはじめている時代ではないでしょうか。納得のできる物に囲まれていることが文化を生み、心豊かな生活につながってゆくように思われます。日々の生活を、気持ちを少し豊かにするお手伝いができたら幸いです。
未使用  20年間使用
                                        2010年 大場芳郎



 
 【眼を養ってくださった方々】
  故 池田三四郎氏(松本民藝生活館初代館長)
  故 安川慶一氏(富山民藝館初代館長) ほか多くの先生方


 
 【漆掻き指導者】
  故 衣川光治氏(日本生漆研究会会長)
 【漆精製指導者】
  故 惣領寛氏(惣領漆器店元店主)

  松本中山地区のうるしの木を10年に渡り掻かせてもらっています。


 
 【ご愛用いただいている店】
  達磨(広島)
  翁(長坂町)
  美山荘(ザ・ウィンザーホテル洞爺)
  丸高蔵ー千の水(諏訪市)
  裏町鯛萬(松本市)
  restaurant SAWADA(松本市) ほか多くの方々





  [大場氏のうるし 愛するの記]

   何点か貴氏作の器あり。
   椀・皿・敷板、
   深いうるしの色相、
   みがきて、
   ふきて、
   増々美しく、
   手技味わい深く、
   喜びとともにすごし、
   何を入れ、
   又何を盛っても良し。
   木器うるしをおびて光り、
   季と共に成長す。
   われよりも永き命あることを想えば無言。
   ただ美在るのみ。

                関西・U氏

 


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